【スリル】
ちょうど帰宅ラッシュと重なり、息をするのも困難なほど混雑し尽くした列車の中。無機質なアナウンスが次の到着駅を告げた。伍番街。目的地まではまだ数駅ある。
「イヤな時間に乗っちまったなぁ……」
身動きの取れないクラウドのすぐ背後に張り付いたザックスが、溜息と共にふと零す。「食事に連れて行きたいから」……ザックスの提案で本社を出た二人だが、辿り着く前に体力を根こそぎ奪われそうだった。特にクラウドは、ミッションの合間に受ける特別強化訓練を先ほど終えたばかりで、いつもよりも疲労していた。
クラウドがミッドガルに来る事はほとんどない。こんな機会でもなければザックスと二人きりになれる時間もない。
それなのに。
「ごめんな、クラウド」
「……別に、大した事じゃないから」
ドアの反対側に押し付けられたままで、クラウドは首だけ動かして応えた。人の波に押し潰されそうになるのを、ザックスが庇うように立ち、防いでくれる。
「……ミッドガルって、人が多いんだな」
「クラウドそれ、まんま田舎者の発言だぞ」
「ザックスだって、変わらないだろ」
むくれたように壁に額を擦り付ける。頭の後ろで、ザックスが笑いを堪えているのが解る。ニブルヘイムもゴンガガも、比べるなら同じくらい辺境だ。馬鹿にされたわけではないが、何処か悔しい。
ふと、ザックスの鼻先が髪に触れた。ビクっと過剰に反応してしまい、クラウドはあわててかぶりを振る。
「ん? どうした?」
「なんでも……ない」
訓練後でシャワーも浴びていない。汗の臭いが気にならないか、クラウドは思わず俯く。
「あんまり……近付かないでくれ」
「どうして?」
「な、なんとなく」
「無茶云うなよ……こんだけ人が多いんだぜ?」
辺りを見回したのが髪の毛を掠める感触で伝わる。身を縮めてそれをかわそうとするが、無理だった。
この人の群れは何処から沸いて何処へ向かうのか。顔も素性も知らない、老若男女集ったこの列車の中で、しかしクラウドは背後に寄り添ったザックスしか意識出来ない。
「クラウド、平気か?」
「……何が」
「気分でも悪いのか? 乗り物、弱いんだもんな」
軽く身構えているクラウドを、心配そうにザックスが覗き込む。
「そうじゃなくて……」
別な意味で酔いそうだ。クラウドは視線を合わせない。
なるべくザックスから身体を離そうと壁に張り付くが、列車が揺れるとバランスを崩してザックスの胸元に引き戻される。
ザックスが鈍いのか、自分が過敏なだけか。クラウドの心情を知ってか知らずか、ザックスはますます密着してくる。
「クラウド?」
不意に耳元で囁かれる。
「頼むから……」
少しだけ離れてくれ。そう云おうとした途端。
車内が暗くなり、ドアの手前のランプが赤く点灯する。ID検知エリア。不審者が紛れ込まないように、個々のIDをスキャンする。
思わず手摺りから手を離し、ザックスにのしかかってしまう。
「ごめっ……」
あわてて起き上がろうとするクラウドを、大きな腕が阻んだ。後ろから抱きすくめられて、クラウドは混乱した頭で振り返った。
ザックスは意地悪く耳の際に唇を這わす。
「なに意識してるんだよ?」
「っ……」
そんな事ない。頬を赤らめつつその腕を払おうとしたが、出来なかった。力強く。逃げられず、クラウドはザックスを強く睨み付けた。
「ふざけてる場合じゃないだろ……!」
「……クラウドがいけないんだろ? 俺を煽るから」
反論も赦さないという風に、ザックスはクラウドを壁に押し付けた。
「だって、……汗くさい、だろ?」
「なんで? クラウドの匂いだ。嫌いじゃない」
どんな顔でそんな台詞を吐くのか。クラウドは俯いて黙り込む。気恥ずかしくなってそっぽを向くと、ザックスの掌が服の上から腹の辺りを撫でてくる。
「なっ……にするっ……」
「黙って」
右手が、クラウドの上着を捲ってその下に滑り込んでくる。まさか、こんな所で。クラウドが息を呑む。
壁に押し付けられているせいで、否も応もない。抗えず、ザックスの思うままに反応してしまう。
「声、出すなよ」
耳のすぐ後ろで、強い口調でザックスが云う。指先が、胸元の鋭敏な突起に触れる。まるでザックスが弄りやすいように、次第に固く屹立していく。
摘んで、転がして、引っ張る。久々の刺激に、嫌でも感じてしまう。
黙って耐えているクラウドに好色を示したのか、今度は左手がズボンの膨らみに触れた。
「駄目……っ」
「しーっ」
僅かに盛り上がるソコを、面白そうに撫でる。くっと握り、手を上下に動かす。右手の愛撫はそのままに、下半身への執拗な責めを忘れない。クラウドは声を上げそうになり、下唇を噛み締める。小刻みに震えるクラウドの耳たぶを口に含んで、ザックスは挑発する。
信じられない……人前なのに。けれど抗議の声は出せない。
ザックスは片手で器用にクラウドのベルトを外し、下着の中に手を入れる。まさかそこまでとは思わず、クラウドは動揺し腰を引いた。
けれど、ザックスからは逃れられない。ザックスに背を預けるようにして、下腹部を揉まれる。
「……っく……」
ID検知エリアが過ぎた。照明が元に戻り、人々は落ち着きを取り戻す。それでもザックスは悪戯を止めようとしない。軽く扱いて、その先端を親指で拭う。滲む先走りが皮を擦る度、卑猥な水音を立てる。クラウドはただ声を漏らさぬよう、自分の手で口を塞いだ。
込み上げてくる快感に流されないよう、指を噛み理性を保とうとする。人が多い所為か、車内の温度は上昇中だ。不快な汗が背中を伝う。
「ダメ……イ、く……っ」
こんな所で出したくない。クラウドは身を捩る。端から見れば男二人が密着する姿は不審だ。しかし、周囲はクラウドが思うほど他人を見ていない。
絶頂を促すように、ザックスの手が速度を増した。
「……っ!」
どくん、と大きく脈を打って、それは堰を切って溢れた。ザックスの掌の中で、精が溜りを作る。全て受け止めて、ザックスは小さく笑う。
吐き出した精を口元に運ぶ。躊躇いなく舐め取る。クラウドは羞恥に肩を震わせる。
「……クラウドの味がする」
ぞくんっ、と何かが背中を走り抜けた。綺麗になった手でクラウドの服を正してやる。紅潮した顔で見上げると、ザックスは愉快そうに笑みを浮かべる。
「……続きは」
「食事が終わったら、な」
そういって、誰も見ていない隙に唇を重ねる。クラウドは血の昇った頭の隅で、夜の始まりを期待してしまう。
「……馬鹿ザックス」
悪態をついて、それでも手繰り寄せるようにザックスの手を取り握る。ゆっくり握り返されて、なんとなく赦してしまいそうになる自分を認める。
七番街。アナウンスが鳴り響き、到着駅を告げる。
……はずみで触れてしまったザックスの股間の状態を察知して、今日は身体が保つか、そんな事を連想してしまう。
だけど、この手が届く場所にある限りは離さない。代償にデザートを一品増やすことを決意して、クラウドはドアの外へ歩き出した。
END
UP:2007-10-31