【リフレイン】
繰り返し──繰り返し。波のように、引いては満ちていく。
耳の奥に木霊する、声。
『クラウド……抱いても、いいか?』
なんでそんな事を聞くんだ?
脇をすり抜ける手が背中を包み込む。酔いそうに、クラウドは勢い余って胸元に額を擦り当てた。
瞳を開けばきっと迫り来るあいつの顔が近くにあるだろう。
『……クラウド、クラウド。……してもいい?』
聞かなくても、するくせに。
そんな声で呼ばないで。麻酔にかかったように、何も喋れなくなるから。
髪も声も甘い毒を含んだように、全身を痺れさせる。指先も声も、自由を奪われる。
……やばい。
「クラウドー! そろそろ起きろー!」
いつの間にかカーテンの隙間から淡い光が漏れて部屋を満たしていた。布団を引き剥がす勢いでザックスが、未だ夢の中に漂っているクラウドに声を掛ける。その声にびっくりして起き上がってから、クラウドはのしかかってくるザックスを枕で叩き落とした。
「いてぇー! なんだよ、人が親切に起こしてやったのにー!」
「つ、つい……」
床に転がったザックスが声を荒げる。クラウドは顔を手で隠しながら、そっぽを向いた。胸がやけにざわつく。
……やけにリアルな情景。夢だとしばらく気付かなかった。
──目の前にいる、アイツが。
夜には別人のように、誘いを掛けてくる。
決して強制している訳ではないのに、逆らえなくなる魔力のようにつよく。見つめられた視線ごと囚われる。気が付いたら腕の中で。重なった肌が睦言に粟立つ。好きだよ。幾度も幾度も繰り返して──快楽の頂点に昇り詰める。
「……シャワー、浴びてくる」
誤魔化すように立ち上がって、クラウドはザックスに背を向ける。だが足がもつれて、その場に転んでしまった。
「おい、大丈夫か?」
ザックスが手を伸ばしてくる。おそらくは何も考えず、反射的に。
思わずその手を振り払って、クラウドはハっとザックスを見返した。驚いたようなザックスに、心臓がズキッと音を立てた。
「わ、悪い……」
あの手が。クラウドはしっかり立ち上がって、そのまま逃げるようにバスルームに駆け込む。
……ザックスの手が器用に自身を弄って、高みへ追い詰めた事を思い出す。鮮明で強烈な夢は昨日の出来事。クラウドは赤面しながらも蛇口を捻って熱いお湯を全開に流す。
考えてはいけないと思う度、込み上げてくる。あの感触、匂い、声、肌……あの瞬間の、喜悦の表情までも。
リフレイン。
繰り返すのは、俺を呼ぶ声。
乱暴に身体を洗い、振り切るように頭を振った。妄想に支配される。まるで盛りのついた雄だ。水しぶきが玉になってタイルを滑っていく。乱暴にタオルを身体に巻きつけて、浴室を後にする。
「……クラウド?」
風呂上りの廊下に立ち塞がるのは、待ち人ザックスであった。少し不機嫌な様子で。クラウドは、息を呑む。
「……なに」
「……昨日、なんか嫌な事でもあった?」
いきなり核心を突く質問に、クラウドはガード出来ずたじろいだ。ザックスはしどろもどろに言葉を捜す。
「その……結構無理矢理だったかもしれないし……痛くないようにしたつもりだけど、よくわからないし……それに俺、もしかしたら変な事云っちゃったかもしれない、から……その」
「別に、怒ってないよ」
極力動揺を隠して、クラウドが首を振る。
「そうなのか? じゃ、なんでそんなにビクビクしてるんだ?」
真正面からじっと見詰められて、クラウドは半歩下がって俯いた。失敗した。壁際に寄り添うと、力なく壁に手を置いてザックスが見下ろす。逃げ場を失って、ますますクラウドは身を縮込むませた。
「……俺とするの、嫌になった……?」
「そ、そういうことじゃなくて……!」
云えない。
……繰り返し、繰り返し聞こえてくるお前の声。
今でも欲情してしまうなんて。
夢のせい? そうじゃなくて。
いつだって、お前を求めてること。見透かされてしまう。
「じゃ、なんで?」
クラウドは返事の代わりにザックスの胸元をきゅっと掴んだ。
「だから……、恥ずかしくて……」
「恥ずかしい? なんで?」
「あんな……格好してるだとか、声とか……ザックスがいちいち云うから」
ザックスは皆まで聞かずに、これ以上ないほどに小さくなったクラウドの顎を摘み上げる。
「! ん……っ」
そっと口付けて、離れる。
「……って、云ってるそばから……!」
「だって、今のクラウド、かわいい。カオ、真っ赤だし」
「だから、そういう事を平気な顔で云うなよ!」
振り上げた拳を受け止めて、ザックスはにやにやと意地悪く微笑む。
「何が恥ずかしいんだよ? 俺が求めて、お前が求めた結果だろ? 何も隠す必要ないだろ」
「……夢で」
「夢?」
「お前の夢……声が、耳から離れなくて、それで……」
「うん?」
その瞬間、緩かったタオルがほどけてクラウドは生まれたままの姿を晒す。両手はザックスに捕らえられて、抵抗出来ない。
どんな様子か、人目でバレてしまう。
「ザックス……!」
「……うん、まぁ、朝だしな、仕方ないよな」
そういう問題じゃない。抗議の声を上げる前にザックスに抱きすくめられて、クラウドは身動きが取れなくなった。
「はなせっ……」
「恥ずかしいなら、見ないから。こうすれば見えないから」
「……!」
密着した下半身が余計に熱を持つ。羞恥に逃げ腰になると、ザックスは回す腕の力を強くする。
「……もっと欲しいんだろ? 俺が」
「ちがっ……」
「朝から悶々とするのって、気持ち悪くない? な?」
解っててわざと耳元で囁くんだ。抗えない魔法のようなそれを、クラウドは黙って受け止める。
頭の中でぐるぐる回る。
ザックスの声。
「嫌だ……っ」
「俺が嫌? 嫌ならやめる」
「う……」
卑怯すぎる。抵抗していた腕の力を抜いて、ザックスの胸の中に顔を埋める。
「……や、じゃない……」
「クラウドの嘘吐き」
壁に押し付けられたまま、ザックスの手がそっと下腹部を撫でた。ビクっと肩を震わせるクラウドの薄く開いた唇に舌を捻り込む。熱い。互いを味わうような、長く甘いキス。激しくないそれは砂漠に落ちる一滴の雫のように、簡単に身体中に染み込んでいく。
洗脳される。
「ふっ……ん、ん……ぅ、ん……」
唾液を絡め取り、歯列の裏をなぞり音を立てて離れる。それでも足りないという風に、呼吸の合間に唇を重ねる。度にザックスの手の中に収まっている自身が反応しているのが解る。恥ずかしい。
「シャワー……浴びたばっかり……」
下半身を悪戯に揉む手に気を取られる。ザックスが唇が触れるか触れないかの位置で、小さく笑う。
「後でもう一回、俺と入ろうか」
「……うん」
ザックスは膝をついて、クラウドの薄く筋肉の乗った腹に口付ける。こそばゆい感覚に後じさるが、逃がさないという風に腰をがっちりと片手で固定される。
上を向くクラウドの自身を軽く啄ばんで、剥き出しの粘膜を咥える。
「やっ……、あ……っ、んぅ、ふ……ぅ」
丁寧に裏筋を舌で舐め取り、硬く張り詰めた根元を手で扱き上げる。鈴口から溢れる雫を吸い取って、先端にぐりぐりと舌を捻じ込む。クラウドは崩れ落ちそうになる膝を支えながら、ザックスの肩を思い切り掴む。ザックスが再び深く飲み込むと、舌を宛がいながら頭を前後させ始めた。じゃぷじゅぷと音を立てて粘膜が嬲られる様を、クラウドは力なく腰を動かして受け入れる。
「ダメっ……ハ、つよく、しないで……っ」
肩に爪を立ててクラウドは小さく喘ぐ。お構いなしという風にザックスは、根元まで深く飲み込んでは啜り上げる。
「っ……イ、ザックス……だめ、出る……っ!」
ザックスの頭を掻き抱くと、腰をビクンと跳ね上げる。箍が外れるようにとめどなく精を放ち、ザックスの口の中を汚す。それすら受け止めてザックスは承知して残さず飲み込む。尿道に残る精の残り滓まで吸い取ると、ようやくクラウドを開放した。
「……ちょっと薄いな。昨日あんだけ出したからなぁ」
「……う、うるさい!」
股間がじんじんする。口元を拭うザックスが何となく色っぽく感じて、クラウドはぞくんと背筋を震わせる。それを見越したように目線を上げて、にやりと口の端を歪める。
獲物をいたぶる野獣の瞳。
「クラウド」
ホラ、また。心を縛り付けるような、甘い囁き。鼓動が抑えきれない。
「ザックスって……ザックス、って……」
云おうとする傍から言葉が見つからなくなる。腰砕け、とはこういう時に使うのだろうか。
ザックスの声が渦を巻いて脳髄に響き渡る。鼓動と同じ速度で。
とくん、とくん、とくん。
「俺が、ナニ? かっこいい?」
「云ってろ、馬鹿」
「だって、クラウド、すごくウットリ見惚れてるからさぁ」
おいで。手を差し伸べてそう招き入れたのはさっきまで夢を見ていたベッドの上で。無駄に羞恥心を煽られる。解っててやってるのか?
全裸のままの自分に、急に恥ずかしくなって身体を竦めると、それごと両腕で包んでくれる。……もちろん、太腿に股間を押し付けてくる事は忘れずに。額に触れるだけのキスをして二人してベッドに転がり込む。
この口が、俺の名前を呼んで……朝の処理までしてくれたんだよな。ふとそんな風に考えが及ぶ事に自分で驚く。
「朝から、って……健全なんだか不健全なんだか……」
「健康な男子なら当たり前の事だから気にするな!」
堂々と股間の猛りをわざとらしく押し付けながらザックスが力を込めて云う。
なんだかこのまま流されるのも悔しいので、クラウドは身体を反転させるとザックスの戒めから逃れ、ザックスの腹の上に跨ってみせた。
「え、……え?」
事態の飲み込めていないザックスは置いてけぼりにして、クラウドはタンクトップから覗く肌に軽く吸い付いた。いつも彼がしてるように──それ以上に赤い華を散らしていく。もぞもぞと動くザックスの昂ぶりに指先を這わせる。布越しでも解る熱さに、こちらまで興奮してしまう。
「……こういうのも、たまにはいいな……」
余裕のない声でザックスが呟く。ハーフパンツの前部分が膨らんで、欲望の大きさを顕著にする。乱暴な素振りで布越しにそれを擦ってやる。
「ザックスって……さっきみたいので……こうなっちゃうの?」
口淫されていたのはクラウドだったのに。ザックスがくしゃ、と掌で金の髪を乱した。
「クラウド、結構カワイイ声出してたし」
「変態」
「変態で結構。クラウドのイイ声も、感じてるカオも、カラダも、全部俺のだからな」
そんな事を混じり気なく真剣に囁くから、散々弄られた下腹部がまた熱を持つ。
このまま手でしてやろうかと思っていたが、それよりも……早く、欲しくなる。
「じゃ、ザックスは……俺のものなのか?」
「そうだよ。この唇はお前を「好きだ」っていうところ。キスするところ。この手はお前を撫でる為のもの。俺のコレは──お前を悦ばせるもの」
防戦一方だったザックスの反撃が始まる。一言一言が刃のように心臓を突き刺す。何度俺を殺せば気が済むんだ。羞恥に顔も上げられずにいるクラウドの背中を撫で、ザックスの指先が厭らしく淫らに動き始める。
「アッ……ん」
腰を撫でられると反応してしまう。そのままザックスの手はクラウドの尻たぶを揉みしだく。
「クラウドって、全身性感帯みたいだな」
「そんなのっ……ザックスが、変な風に、触るから……」
「感じやすい事はいい事だぞ。ホラ、こっちも」
跨った状態での後穴は晒され易く、ザックスの長い指が周辺をなぞる。思わず背中を仰け反ると、ザックスは片手で背中をさすりながらもう片方の手を蕾に伸ばす。無防備になった胸郭に躊躇いなく舌を這わせて、より敏感である乳首に吸い付いた。口の中で転がしながら、指先で蕾の皴を丹念に解していく。シャワーで濡れたソコはほんのり湿っていて、昨晩の行為もあってから容易に浸入出来る。
「ごめん、ココ、痛い……?」
昨晩のうちに何度絶頂を迎えさせられただろう。男の排泄器官がこんなにも快感に目覚めるとは思っていなかった。それもこれもザックスのせいだ。こんなカラダにしたのは……
飽く事無く毎晩のように求めては繰り返し。繋がる事を知っては尚。男の腹の上で喘がされる光景を、誰が文字通り夢にまで見るようになったのか。
「……ザックスの、せいっ……だからな」
「何が?」
「こんな……おかしくしたの……っ」
「うん? でも、気持ちいいんだろ?」
否定はしない。
尻を嬲る指が次第に奥深くに差し込まれていく。クラウドが一番弱い所──前立腺をわざと避けて、ずぷずぷと指を前後させ、掻き回す。それだけで。
「やぁ……そんなの……、ズルイ……んーっ……!」
「俺を散々煽った罰だ」
「嫌だ……っ、ザックス……ぅ、んぅ……」
浅く短い波が下腹部を襲う。すでにザックスの腹に自身を擦り付けて腰を揺らす様を見せ付け、ザックスももう限界なのだ。
「や、だ……」
「何が? 抜いた方がいい?」
意地悪く微笑むとあっさりと指を引き抜いてしまう。ぶるっと震えるクラウドは、力なくザックスの首に腕を回す。
「お願い……い、……い、れて……」
「嫌なんじゃないのか?」
「ちがうっ……ザックスが……ザックスが、欲しいよ……!」
ぎゅっとザックスのしがみついてそれだけ吐き出す。
この浅ましい昂ぶったカラダを収める術はただひとつ。
ザックスを与えること。
身体中ザックスでいっぱいになって、掻き乱れること。
満たして。この、飢えたカラダを。
「ちょっと腰上げて。下、脱ぐから」
「うん……」
覚束ない身体でザックスの上からどこうとすると、手が伸びて制止する。
「ダメ。今日はクラウドが上」
「えっ……えええええ?」
「出来るだろ? ホラ、もういいよ」
下半身だけ脱ぎ捨てて、ザックスがクラウドを招き入れる。普段から見慣れているつもりのその部分は日差しが明るいせいか、いつもより一回りほど大きく見え、恐怖心をそそられる。すでに先走りで汚れたソコがいかにクラウドを苛めるのか、想像するだけでカラダが熱くなる。
枕の下に忍ばせてあるローションを手に取ると、ザックスは雄の部分に塗りたくる。その上におずおずと進み出ると、自分自身で尻たぶを持ち上げてザックスの怒張を宛がった。ザックスも濡れた手で手伝って穴を拡げてやると、割と抵抗もなくザックスを受け入れる事が出来た。
「いたっ……!」
「痛い? キツイ?」
「なんか、昨日より……お、おっきい……」
その言葉に躊躇いがちになりながら呟く。昨日の行為の影響で少し腫れているのかもしれない。
「うん。今にも爆発しそうだもん」
「これ、奥……すご、いっぱい……ザックスが」
自重でぬるぬるの男根を飲み込ませながら、クラウドが云う。
「クラウド、自分で動ける?」
「うん……」
腰を浮かして、浅く。そして締め付けながら深く。スローなテンポで。結合部の痛みにも慣れた頃、少しずつ自分で「イイところ」を意識しながら腰を上下させる。意図せず先端が前立腺に触れると、反射的に穴が縮小してしまう。徐々に全身にくる快感。
「はぁ……ア、は……ザックス……っ」
「クラウド、こっち見て」
手を添えて、ともすれば俯きがちになるクラウドの頬に触れる。ザックスの、蒼い瞳。窓の外に広がる、その澄んだ青空を写し取ったような色。
がんじがらめに捕らえていく。浸入し、介入し、影響する。
リフレイン。
逃れられない、運命の歯車のように。
「好きだよ、クラウド」
このタイミングで。
ザックスは返事も待たずにクラウドの片膝を担ぎ、下から突き上げる。言葉にならなかった言葉は嬌声となり、喉からひっきりなしに飛び出る。
「やっ、ザックス……う、あっ……ハッ、あぁ……ん、んぅ……」
ザックスの肩に爪を立てる。そうでもしないと正気が保てなくくらいに。
狂わされる。
貪るようにキスをして、がんがんと突き上げる腰は蕩けてそのままひとつになるかのように強く繋がっていく。敏感な部位を有無を云わせずに責めて、クラウドは熱い涙を流す。呼吸も忘れてただ、喘ぐ。
硬いベッドにクラウドを押し倒して、尚も腰を打ち続ける。クラウドはザックスの背中にしがみついて、ザックス曰く「イイ声」を耳元で聴かせてやる。ザックスが眉をしかめて、掠れた声で何度もクラウドを呼ぶ。昂ぶっているのは自分だけじゃない。二人で今、セックスしているんだと云わんばかりに。
「あ、アっ……ザックス、ザッ……クス、イイ……い、い……ひぁ……っ」
「クラウド、締め付けるな……俺だって、もう……っ」
「無理……、ザックス……ザックス……ぅ」
夢中になると互いの名前しか云えなくなる。涙の滲む視界には、もう我慢の聞かない態のザックスが雄の表情でクラウドを舐めるように見ている。
「……ごめ、クラウド……出るっ……!」
動きが早まったかと思えば腰が最奥まで押し込まれ、熱い奔流を体内に流し込まれる。
「ザックス……!」
それにつられる形で、クラウドも愛しい名を吐いて絶頂を迎える。二度目だから出た、という感触はない。ただ、身体の奥がヒクヒクと余韻を残すばかりだ。ザックスの残りの精まで貪り尽くすかのようにきゅうきゅうと締め上げては、ザックスの顔を歪ませる。
「……二回目、イけそう?」
馬鹿、と口だけ形作ってクラウドは汗と唾液で汚れたザックスの胸元に額を埋めた。
繰り返し、繰り返し聞こえるよ。お前の声が。
いつでも、どんな瞬間でも。
「あと、一回だけ……」
お前が欲しいよ。俺のものなのに、何度も求めてしまうよ。
ザックスは柔らかく微笑んで、クラウドに口付ける。もう逃げられない、それはリフレインのように繰り返される甘く淫らな愚行。出来れば終わらせないで、いつまでもいつまでも遠く響くように、それは──
END
UP:2008-09-18