【perfect crime】
──perfect crime。
誰の手を煩わせる事無く、お前を手に入れよう。
知っている。俺がお前の名を呼ぶ度に、目蓋が小さく震えるんだ。
知っている。俺がお前の肌に触れると、指先が小さく揺らぐんだ。
「……クラウド」
ホラ、また。
ソファの端に逃げるように背中を丸めたクラウドを、追い詰めるように近付く。ザックスは少し考えるように間を置いてから、溜息を吐き出した。
「なんでそんな端っこにいるんだよ? なんか傷つく」
「そんなつもりじゃ……」
自分の部屋だと云うのに、クラウドは緊張している。ただ、こうして二人で過ごす時間でさえ。ザックスは意地悪く微笑むと、抱き込むように固く結んだクラウドの手を取った。
「……じゃ、なんで目、合わせねぇの?」
「それは……」
「クラウドってさ、普段からそうなのか? そんなガチガチじゃ、いつまで経っても友達なんか出来ないぞ?」
ピクっとクラウドが肩で反応する。
「だって……」
紅潮する頬が可愛らしい、なんて思いながらザックスはその手を口元に運んだ。
「ザックスが……そういう事するからだろ……!」
知っている。
ザックスは微笑んでから、ずいっと身を乗り出した。クラウドは逃げ場を失って、迫るザックスから目を逸らしながら俯いた。
「俺は『友達以上』だから、いいの」
「勝手だな……!」
吐き捨てる言葉ごと攫うように、ザックスは強引に口付ける。それだけで、甘美な毒を含んだように大人しくなる。潤んだ瞳で睨みつけられても、説得力がない。
本当は、クラウドを落とすのに言葉も要らないのかもしれない。
隣にいるだけで。
お前の心を掴むのは、容易い。
「……そんなカオしてると、本当に襲うぞ?」
悪戯めいた笑みを零して、ザックスはクラウドの元から離れ立ち上がった。大きな目を瞬かせて、クラウドは呆気に取られる。ザックスはひらひらと手を振って、部屋の扉に手を掛ける。
「そんなに嫌なら、俺は別の部屋で寝るから」
「え……」
拍子抜けしたような、残念そうなクラウドの表情。ザックスはそのまま廊下に出る。
──知っているから。
背後から、服を引っ張る感覚。つんのめって後ろに転びそうになって、固い何かがぶつかって止めた。
振り返ると、クラウドが膨れっ面で服を掴んで離そうとしない。
追いかけて、行かないでと訴える瞳。
「……スナオじゃないな、お前は」
金の髪をかしかしと掻き混ぜて、その頭を胸元に押し付けた。背中に手を回してしがみついてくるクラウドは、愛しくて堪らない。
「なんか、捨てられた子猫みたい」
「うるさい……っ」
「クラウド。ちゃんと言葉で教えてくれないと……どうして欲しいんだ?」
あやすように髪を撫でて、見上げてくるクラウドの額にキスを与える。くすぐったそうに顔を顰めるクラウドは、ゆっくりと唇を開いた。
「一緒に……いたい……」
「一緒にいるだけでいいのか?」
「……もっと……」
いっぱいキスして、抱き締めて。
「『友達以上』……なんだろ」
クラウドが背伸びをして、促す。ザックスは一瞬躊躇いながらもそれに応じて、唇を重ねた。
いとも簡単に。
手に入る。
クラウドの寝室のドアを開けて背中を押すと、自分から入っていく。何もかも計算された行動に疑念はなく。後ろ手に閉じた扉に鍵を掛ける。
怯えるように肩を抱くクラウドを包み込むように抱き締めてやる。ぬるま湯に氷が溶けていくように、クラウドの頑なな心も解ける。
「……こっち、来て」
ベッドの上に胡坐をかいて、手を差し伸べる。その上にクラウドを抱えてベッドに座る。不思議そうにこちらを見やるクラウドのこめかみにキスを落として、耳の際……頬骨を伝い、うなじに吸い付く。ぎゅっとザックスの太腿に爪を立てて、クラウドは肩を竦める。
「んっ……、う、ん……」
ザックスはクラウドのシャツのボタンを手探りで外していく。白い肌が露わになる頃、クラウドは抵抗もなくザックスに背を預けていた。
肌の上をザックスの指先が滑り落ちると、クラウドは小さく声を上げた。
「ザックス……」
「なに? 俺はここにいるよ」
わざとらしく耳元で囁きかける。焦らすように乳頭の周りを撫で、期待に屹立する部位だけは触れない。
「やっ……ぁ、ん……」
身を捩じらせるクラウドに、ザックスはくすっと口の端を歪める。
「嫌なのか?」
「ち……ちがっ……」
「どっちだよ。ちゃんと云わないと、触らないぞ?」
きゅっと先端を摘み上げ、捏ね上げる。背中を反らして疼痛に耐えるクラウドの後頭部に鼻先を埋めて、ザックスは突起を爪で弾く。片方の手で薄く浮き出た肋骨をなぞって、脇腹をくすぐる。敏感なクラウドはそれだけでも背筋を震わせる。
「……感じてる?」
「っ……!」
拳を振り上げる代わりにザックスの服を思いきり掴む。そうでもしないと、我慢が効かなくなるように。
「……コッチも、ぱんぱんだな」
すっと撫でるように下腹部に手を伸ばす。上からでもどんな様子かはっきりとわかるくらい、クラウドのその部分は勃ち上がってしまっている。クラウドが羞恥に顔を染めると、ザックスは難なくズボンの下に手を潜り込ませる。
「ダメ、ソコは……!」
クラウドが初めて抵抗した。だけど、脚はがっちりとザックスに絡み取られて逃げられない。クラウドが伸ばした手を奪い取って、ザックスは躊躇いなく下着をずり下ろした。クラウドの肉芯がひんやりとした外気に晒される。
「ダメって、こんなになってるのに……?」
「だ、だって……」
隠そうとする姿が可愛い。ザックスはソレを力なく握って反応を確かめる。
先端を剥いて滲み出る蜜を親指で拭い取る。ぬるりとした感触に、クラウドがビクっと背中を仰け反らせる。
ザックスが先端を指先で擦り上げると、クラウドからは甘い吐息が漏れる。
「ぬるぬる。漏らしてるみたい」
「……ふぁ……あっ、ア、ん……!」
腕の中でもがくクラウドを制するように捕まえて、執拗に鈴口を苛む。あとからあとから溢れる先走りは、どれだけ否定してもクラウドの高まりを教えてくれる。
ふるふると首を振って、身を捻る。ザックスは花芯に対して手を前後に宛がって、もう片方の手で胸元をくすぐる。そっと耳に息を吹きかけると、穴の中に舌を差し入れる。
「っ……あ、ふ……ダメ、ザックス……!」
這い出したいのに出来ない。クラウドは次第に抗う事も諦めて、ザックスに背中を預ける。力なく、摘み上げられる突起と口の中で転がされる耳たぶと、幾度となく擦られる自身を受け入れる。
ザックスはほくそ笑む。……今、クラウドは腕の中で快感に責め立てられている。酷く加虐的な気持ちになる。もっと追い詰めてぐちゃぐちゃにしてやりたい。
──堕落せよ。
お前を犯す、醜い欲望。晒せ、その心を。
縛り付けて、羽根をむしり、陥落する態を見せ付けろ。
「ソコ……っ、ばっか……いやだ……」
「……じゃ、ドコならいいんだ? ちゃんと、教えて」
「っ……!」
肩越しに振り返るクラウドは潤ませた眼を此方に向けて、哀願する。
未だクラウドの肉芯から離れないザックスの手に、己の手を重ねる。
「欲しい……」
「……なにを?」
「っ……! ザックス……を」
ザックスの汚れた掌を解いてぎゅっと包んで、口付ける。
欲しい、と何度となく云わせる。
きっとこれは罪。
クラウド。お前は……どれだけ俺を虜にすれば気が済むのか?
「俺も欲しい」
「うん……」
「目、閉じて」
きし、とベッドが重みで鳴った。クラウドに覆い被さって、云われるがままの彼の唇を塞ぐ。嬲るように舌を差し込んで、息が出来ないくらいに絡め合う。熱い舌に翻弄されて、クラウドからは嗚咽が漏れる。
「くるし……っ、ザッ……クス……っ」
クラウドは引き剥がすかのようにザックスのシャツを引っ張って、次第に力が抜けてそのまましがみついてくる。
キスで死ねるなら、本望だ。
ザックスは唾液まみれのソレをゆっくり引き抜いた。息が上がってぐったりとベッドに沈み込むクラウドを置いて、ザックスは服を脱いだ。
「……クラウド」
しっとりと濡れる唇を親指でなぞり、ザックスは雄の先端をそっと近付ける。
「……出来る?」
こくん、とうなづいて、痺れる舌を伸ばしてくる。いつもなら拒むはずの口淫を、今日だけは許してくれる。少しだけ先走りで滴った先を舌でこじ開けるようにしてから、唇で食む。銜えて、割れ目に舌を這わせ、擦る。粘膜を直接舐り、力なく両手を宛がって軸を擦りあげる。ザックスはもたらされる快感に目を細め、クラウドの頭を掴んで腰を動かす。
「んっ……ふ、く……っん……」
「ん……気持ちいいよ、クラウド。ありがとう」
名残惜しそうにクラウドの唇から雄を引き抜く。唾液が糸を引いて、クラウドは追い縋るように顔を上げた。張り詰めて上を向く雄の様子は、ザックスの胸の内を表すようだ。今にも爆発しそうなソレを宥めながら、ザックスはクラウドの両脚を高々と持ち上げた。
「っ……ザックス……!」
膝裏を掴んで、露わになった秘所に口付ける。窪みに尖らせた舌を捻じ込ませて、丁寧に舐め上げる。
「ん……ふ、う……」
「力抜けよ、クラウド。……そう、もっと……」
指を宛がうと、皺をくねらせて飲み込んでいく。その様子にザックスもより興奮を覚える。
「ふぁ……っ、あ……」
もう充分と思うまで解してから、ザックスは起き上がった。
「……入れるよ。少し、我慢して……な。痛かったら云って」
目尻に溜まった涙を舐め取って、ザックスは柔らかく微笑む。素直にうなづくクラウドの頭を撫でて、尻たぶを左右に割り開く。
「んく……っ!」
「息、吐いて。力入れないで、そっと……」
雄を擦りつけ狙いを定めると、クラウドを思ってゆっくりと挿入する。いつもながらキツイ。苦痛と快楽に顔を歪めながら、少しづつクラウドの内部に侵入する。
「ふぁ……、熱……っ」
「お前が熱くしたんだ、クラウド」
ザックスは途切れ途切れに呟くクラウドの口をキスで塞ぐ。
「……好きだ、クラウド」
誰も知らない、クラウドの悦に入った顔。
俺だけのものだと自惚れる。
──愛を知らないクラウドは、それをちらつかせればあっさりと食らいつく。
完全犯罪。
堕ちた天使は尚も輝きを失わず。
しかし、二度と天には戻れない。
腰を前後に揺らす。息を吐き出したタイミングで律動を開始する。
「ひぁ……ん、や、あぁ……っ! は、う……ぁ」
結合した部位がぎちぎちと軋る。煽るように奥まで突っ込んでから引き出す。何度も、何度も。クラウドは行き場のない手をザックスの背中に回して、爪を立てる。痛みより、局部の快感の方が強い。
クラウドの弱い部分を擦り上げて、嫌でも鳴かせる。粘膜が前立腺を掠めて、度にクラウドはザックスを締め上げた。
もっと欲しいと、クラウドは半開きの唇で形作る。
いくらでもあげる。ザックスは自身を押し付けるように腰をぐいっと引き寄せた。
「は、もう……っ、ダメ……ザッ……クス!」
「いいよ、イっても……俺も、イイ……!」
腰を揺すって強請る。ザックスは限界が近い事を悟って、動きを早めた。ザックスにしがみついて、クラウドは大きく溜息を吐き出した。
「あっ……!」
繋がったソコがきゅうっとザックスを締め付ける。ビクン、と跳ねて、クラウドは精を発した。
断続的に締まって、ザックスも堪らず射精する。叩きつけるように、奥底に。
結合した部位から精が零れ落ちる。
「……クラウド」
肩で嗚咽を漏らすクラウドの背中を宥めるように撫でる。すると、ぎゅっと抱きついてくる。
「……クラウドは、俺の事……好き?」
クラウドは答えない。ザックスは少しだけ眉を顰めて、クラウドの肩に顔を埋める。
手に入ったと思っても、それはまやかしで。
どれだけ罠にはめても、片翼で飛んでいってしまう。
けれど、この温もりだけは本物だから。
「……好きだ」
──お前は俺だけのもの。
絶対に、離さない。
二人は気の遠くなるほど抱き合ったまま動かなかった。ザックスは嬉しいような困ったような表情で、クラウドを抱き締めていた。西の空が徐々に白んで、新しい一日を運んでくるまで。
END
UP:2008-01-03