【含ます】



 ……例えば、駆け引きやテクニック、相手を試す嘘だとか、くだらない事を妄想している。
 ザックスがくれる笑顔。だけど、他の人間にも見せている事を知っているから。
 自分に自信が持てない。
 どうにかして繋ぎとめておきたいと思うのは、エゴなのだろうか。
「ザックス、さくらんぼがあるんだけど、食べる?」
 食事の後のまったりする時間。ソファーに横になって雑誌をめくるザックスに声を掛ける。
「珍しいな、さくらんぼなんて」
「貰い物だけど」
「食べる食べる」
 水で濯いで皿に盛り付ける。ザックスが起き上がって、テーブルに置く前に手を伸ばした。行儀が悪いと手の甲を叩く。
 一つ、枝をもいで口に入れる。噛み締めると飛び出す甘い汁。広がる。
「クラウド、さくらんぼの枝、口の中で結べる?」
「何それ、出来ないよ。出来たらどうなの?」
「そういう事じゃなくて、結べるかどうかがポイントなんだよ。『結べる』=『キスが上手』ってこと」
 なんだそれは。クラウドが呆れるのも無視してザックスは枝を口に放り入れる。
「……むー、んむむ……これ、意外と難しい」
「……ふーん」
 ちらっと枝を盗み見て、クラウドも口に運ぶ。舌で輪を作り端を通す。それだけの事なのに、真剣になる二人が滑稽に見える。
「んー、……あぁっ、もうちょっとだったのに!」
「……はぁ、出来ないよ。出来る奴いるのか?」
 舌がどうにかなりそうだ。吐き出して、口直しにさくらんぼを摘む。
「なんか悔しい。……んむっ、むぅ!」
「止めなよザックス。無理だよ」
 むきになるザックスも「らしい」と思うが。クラウドはさくらんぼを持ち上げた。
「……ザックス」
 枝を取り出して睨みつけるザックスに指で傍に寄るように合図する。ザックスは顔に疑問符を貼り付けたまま寄せてくる。
 クラウドは口の中にさくらんぼを放り込むと、ザックスに唇を重ねた。
 甘酸っぱい香り。口の中でさくらんぼが転がる。ザックスは驚きつつクラウドの肩を引き寄せて、次第に夢中になる。実を押し返し、弄び、甘噛みする。滴る唾液を拭う事も出来ず、二人はただお互いを味わい尽くす。息も絶え絶えに、掴む両の手に力が入らないくらいに激しく、優しく。
「……」
 実をザックスに押し付けて、クラウドは離れる。よく事態の飲み込めていないザックスの唇に人差し指を宛がう。
 枝なんて結べなくたって、充分だろ? そう云いたげに上目遣いで訴える。
「クラウド……」
 人差し指を口に含ます。口の中で蕩けるさくらんぼを指先で翻弄する。その手を奪ってザックスはクラウドを床に押し付けた。
 ……こんな風にしか、挑発出来ない。
 ザックスの愛を確かめられない。
 だけど、それでいい。望んでそうなったのだから。
「キス……上手だよ、ザックス」
 腰が砕ける夢のような口付け。
 ほんの少しの寂しさも溶けて消えていく。
 目を閉じて、降ってくるキスの甘さはチェリーのそれのよう。逃さないようにそっと、力を込めた。
 ──キスをしている間は、俺だけを見てくれるから。
 二対のさくらんぼのように、永遠に繋がる事は出来ないけれど。それでもいい。この瞬間が心地よければ。





   END
UP:2007-11-16