【塞き止める】



 卑猥な水音が湿った夜を満たしていく。閉じられた空間。魔法が掛かったかのような部屋で、二つの影が重なる。
 暗闇に脚を開き、声を漏らすまいと手近にあるシーツを握り締める。込み上げてくる焦燥感。クラウドは痙攣するように肩を震わせた。
「っ……」
「なんで、声、我慢してるんだ……?」
 下唇を噛み締めるクラウドに手を伸ばして、ザックスが囁く。親指で唇の淵を撫で、そっと口付ける。
「だって……恥ずかし……っ」
 左手はクラウドの下腹部を握り締めたまま、ザックスは頬を寄せる。この距離でないと、お互いが見えない。
「クラウドが『暗くしてくれ』って云ったんだぞ……?」
「んぅ……」
「クラウドが感じているトコ、ちゃんと見たいのに」
 ザックスはそういうけれど。クラウドは首を振る。
 見られたくない。聴かれたくない。この、酷く浅ましい身体を。
 貪欲に、ザックスだけを求める肉体を。
「声、出して?」
 物言いは柔らかくとも逆らう事は赦さないという風に、彼は云う。途端に下腹部を襲う刺激。
「あぅ……っ、あ、はぁっ……ア」
 行為が再開される。穿たれる半身は制御の効かぬ人形のように、ただ、打ち込まれた雄を飲み込む。結合した秘所からは粘膜の擦れる厭な音が響く。目が利かない分、その音は自棄にリアルに耳元を汚す。
 何処を責めればどんな反応が返るか、ザックスには解る。クラウドはただ打ち喘ぐだけ。その涙も闇へと消える。
「ハァ……は、あ、ア……っ、ザ……ックス、あ、はぁ……っ」
「やらしい声。いいぜ、もっと鳴けよ」
 前後に揺さぶると、クラウドからは甲高い嬌声が上がる。隠せない。
 恥じらいもなく、歓喜に打ち震える。
「嫌だっ……あ、アッ……ザ、クス……ぅ、んぅ、んっ……!」
「何が『嫌だ』? コッチはヌルヌルで……っ、今にも弾けそうだ」
 左手でクラウドの自身を扱き上げる。
「いぁ……っ!」
「……おっと、まだイくなよ? コッチは我慢しててくれ……な?」
「無理っ……い、動かさな……!」
 ザックスを思い切り締め上げて、クラウドは身を捩る。ザックスは到達しそうになる雄をくっと握り、溢れる精を塞き止める。クラウドは堪らず腰を揺らす。
「は、はなしっ……、あ、やだ……っ!」
「違うだろ、クラウド。『イかせてください』……云ってみな?」
 鼻先を掠めるザックスの黒髪。腰だけを使ってクラウドを鳴かせる。
「ふぁっ、あ、……ザックス、手……っ」
「そのまま我慢してるのも……ツライだろ? その方が、俺としては気持ちいいけど……」
「……あっ、ダメ、……ザックス……っ」
「凄い、締まる。……クラウド」
 堪えていたものが堰を切って溢れそうだ。射精を止められて、今にもはちきれんばかりに亀頭は充血し腫れ上がっている。
 だけど、口をつくのは悪態だけで。
 素直に求める事も出来やしない。
「……ザック……ス!」
 ただ熱に浮かされたように名を呼ぶ。──塞き止められたのは絶頂だけではない。
 愛しいと思うその心。
 言葉。
『好きだ』という、一言。
「はっ、ダメ……出る、う、くぅ……っ!」
「いいぜ、俺も……っ!」
 ザックスは手を緩めてクラウドを開放する。瞬間、尤も深い奥底に熱い精を叩きつける。クラウドもまた、大きく身を震わせると歓喜の声と共に精を放つ。止まらない。ザックスは全てを出し切るまで動かなかった。荒い息遣いだけが、この闇に彩られる室内を満たしていく。
 手探りで相手の背中を引き寄せて、クラウドは肩で息を吐き出す。
「……きだよ、ザックス……」
 誰にも聞き取れないほどの微細な声で。塞ぎ止めていた想いを今開放する。誰よりも愛しいこの男を、たとえ深遠の闇の果てでも決して離さないように。クラウドは力の及ぶ限り彼を抱き締め、ザックスに見えないように優しく微笑んでみせた。





   END
UP:2007-09-26