【縛る】



 唇が綴るのは愛の鎖。
 がんじがらめに絡み付いて、もう離さない。


 ……たぶん、彼の声が好みなんだと思う。
 ただ、それだけなんだ、きっと。
 テーブルで頬杖をついて、ふざけて笑い合ったかと思うと、急に真剣な表情で名前を呼ぶ。そんな時、クラウドは魔法にかかったかのように指先から痺れる。
「……なんだよ、変なカオして」
 ザックスはゆっくり微笑んで、指先を伸ばして固まってしまったクラウドの頬をつつく。
「なんでもない」
 内心の動揺は隠したまま、その手を素っ気無く払う。
 名前なんて、誰が呼んでも一緒なのに。どうしてザックス相手だと、こうも調子が狂うんだろう?
 不思議。
「……ザックス」
 クラウドが呼んでも、ザックスは平静だ。テーブルについた肘はそのままに、ザックスの唇に手を伸ばした。
「名前、呼んでみて」
「ん? なんだよ急に」 
「いいから」
 ザックスは意味を掴みかねたような複雑な顔で、唇を開く。
「……クラウド」
 がっとクラウドの手を掴んで、胸元に引き寄せる。不意を突かれて、クラウドはザックスの上になだれ込んだ。
「っ……あぶな……!」 
「油断大敵」
 子供が母親に懐くようにぎゅっと抱きしめて、耳元で囁く。
「……名前くらい、いつだって呼んでやるよ」
「ザックス……!」
「クラウド。……クラウド」
 心臓が破裂しそうに激しく鼓動を打った。密着した胸が伝える。クラウドは瞬時に赤面して、閉口する。
 なんて気持ちいい。
 心を縛る、呪文。
 くだらない愛の囁きより、俺を束縛する優しい声。
「……もっと、呼んで」
 ザックスの胸に顔を埋めて、クラウドは呟いた。その金の髪を梳くように撫でながら、ザックスはもう一度クラウドの名を口にした。
「俺の名前も呼んでよ、クラウド」
「……ザックス?」
「そう。呼んで」
「……ザックス。ザックス」
 求めるように。情事の時のそれのように、クラウドはザックスの名前を呼ぶ。
 クラウドの声は、ザックスの心にどれだけ響くのだろうか。
「……ありがとう、クラウド」
 ザックスはクラウドの形のいい唇に親指を押し当てる。遮られて顔を上げると、ザックスはゆっくりと口付けてきた。囚われた咎人のように抗えず、クラウドはなすがままに受け入れる。
 あと一回名前を呼んでくれたら……きっと、いつもより素直に応じられるだろう。
 ザックスを求める心。
 もう、お前のものだから。





   END
UP:2007-12-20