【くちびるから魔法】
たった一言でいいから、囁いて。
……見つめ合って、肩を抱いて、頬を撫でて、キスを交わして。
「何か、足りない」
ザックスはベッドの片端に体重を掛けながらぼそりと呟く。ザックスにのしかかられている形で横たわるクラウドは、突然の言葉にどう返していいかわからずきょとんと見つめ返した。
普段と何一つ変わらずに、今日の出来事を互いに報告し合って、笑って、ふとした瞬間にどちらともなく目で訴えて、流されるように寝室に雪崩れ込む。そこに言葉はなく、伸ばした手が相手の肌に触れた事が合図。二人だけの約束事のように、違えることなく。
眉をしかめて、ザックスが身体を起こした。つられるように一緒に起き上がって、クラウドは首をかしげる。
「足りないって、何が?」
ふかふかではないけれど、二人で寝るには申し分ない大きなベッド。洗い立てのシーツ。臆面なく瞬いて満つる月。隠すカーテン。……そして、枕の下に潜む潤滑剤やスキン、ベッドの下の性具の数々。
生活に必要ない物ばかり増えていく一方なのに、ザックスは足りないという。
「これ以上、何が欲しいんだよ」
呆れたように片手を上げる。ザックスは身を乗り出して、返すその瞳をじっと覗き込んだ。
「……なんだよ」
「足りないよな、やっぱり」
「だから、何が」
「──『愛』が」
大真面目に何を云うかと思えば。クラウドはぺしん、とザックスの頭をはたく。いってー、と、ザックスは大袈裟にリアクションする。
心から溜息を吐き出して、クラウドが睨みつける。
「寝ないで寝言を云うタイプだとはわかっていたけど」
「俺はなんだ、夢遊病患者か!」
「当たり前だろ! 真顔でそんなこと……云うなんて」
「いいや! 足りない。俺たちにはもっと、『愛』が必要なんだ!」
「恥ずかしいから大声でいうな!」
枕をポスッと叩きつけて無理矢理黙らせて、クラウドが喚く。
「だって、クラウド……『好き』とか云ってくれないじゃん」
枕を抱き締めて、ザックスが上目遣いに云う。クラウドはぎくりと身構える。
「何を急に……」
「たまにはクラウドからの告白も、聞きたいな」
「云うわけないだろ……っ」
身体ごと背けて、クラウドは俯いた。そんな恥ずかしいこと……改めて云えるはずがない。
「なー、どうしてもダメ?」
「嫌だ!」
「クラウド」
ザックスは枕ごと覆い被さり、クラウドの目を真正面から捉えた。ぐっと息を呑んで、逃れようと腕を動かすがそれは適わなかった。
責めるような、強請るような無言の瞳。
「……本当に、嫌?」
枕を片手で制しながら、もう一方の手は下腹部をゆっくりと撫でた。ズボン越しの刺激にクラウドが身を縮めると、力任せに下着ごと引き摺り下ろす。
「んっ……、ザックス……っ」
晒された自身が熱を持って鎌首をもたげる。指先で先端を擦られる度、淫靡な水音が響く。ぬるりとした粘膜の感触に、クラウドは身震いする。ザックスは腫れ物を触るような手つきで、芯を握り上下させる。
「全然嫌ってカンジじゃないけどな」
「やっ、……ずるい、ザックス」
「ずるいのは、クラウドだろ? ホラ、先っぽがぱっくり割れて、滴ってきた」
先走りに汚れた掌で、扱く。
「んぅ……、は、ア……や、うっ……」
「スッゲ、ぬるぬる……でも」
それまで絶頂に導くようにクラウドを嬲っていた手が止まる。根元を締め上げて、ビクビクと踊るそれを諌める。
「やっ……! はなし、……手、嫌だ……っ」
「離して欲しいか? だったら──」
ザックスは意地悪い笑みを浮かべながら、ぐっと顔を近付ける。
「教えて。クラウドがどう思ってるか……」
「っ……」
静かに、だけど反論は赦さないように強く。教えて。ザックスはそっと唇を重ねた。くぐもった息を漏らして、クラウドは押し黙ったままザックスを見返した。
「意地悪……っ」
どくんっ、と内側が吐精を急かすように脈を打った。
「……だって、不安になるだろ」
それまでと違うニュアンスで、ぽつりとザックスが呟いた。クラウドは驚いて、目をしばたかせる。
「……不安?」
「時々思うんだ。俺とするの……そんなに嫌なのか、とか。俺はクラウドの事、好きで好きでどうしようもなのに、クラウドは違うのかなって……」
「ザ、ザックス……」
「嘘なんかじゃない。俺は、クラウドが好きだ」
こんな時に、そんな台詞。卑怯じゃないか? クラウドは耳まで羞恥に染めて、けれど目は逸らせずにじっと受け止める。
情熱を。
言葉だけで手に入るなら、『愛』というのは実に容易い。だけど、それでも求めてしまうものが。
──『好き』ということだろう?
「ザックス、……苦しい」
押さえつけられていた枕をどかして、両手を伸ばした。ザックスは、たじろぎながらも身を寄せるようにクラウドを抱き締めた。ほんの一瞬か数秒か判断がつかなくなる頃、クラウドが面を上げた。
「俺、だって……」
途絶えがちになる息を整えて。
きつく胸を打つ心臓を抑えて。
そっと、囁く。
「……好き、……」
声にならない声。だけど、ザックスには届いた。
クラウドを抱きかかえたまま後ろに突っ伏して、一人笑う。
「なんだよ……!」
「やばい。な、な、クラウド、もう一回云って」
「……嫌だ!」
鎖骨に吸い付いて、背骨を下から撫で上げる。火がついたようにザックスは、あちこちに所有の証を刻み込む。クラウドはザックスにのしかかったまま、されるがままに刻印を与えられる。絶頂を止められた身体は、今にも爆発寸前だ。
脚を開かせて、内腿をさする。汗と精とでぐちゃぐちゃのソコを捏ねくり回しながら、自分の下着を脱ぎ捨てた。クラウドは腰を浮かせ、もたらされる刺激に酔う。
割れ目に指を這わせて、窪みを弄った。びくんと跳ねる腰を捕まえて、焦らすようにゆっくりと中指を押し込んだ。
「ふぁ……っ、ア、……ん、ふ……っ、あん……」
蠢く指を感じて、クラウドは苦痛と喜悦に鳴く。クラウドの弱い所を探るように動かす。
「いぁ……っ!」
爪の先で引っ掻くように突起を弄くる。前立腺を直接嬲る責めに耐え切れず、クラウドは精を漏らした。ザックスの半身を汚してもなお、射精は止まらない。
「……ごめ、ん……」
「いいよ。ずっと我慢してたんだもんな」
腹の上にぶちまけられたソレを口元に運んで、ザックスが微笑む。
「俺は、クラウドの中に出させてもらうから」
「──え」
云うが早いか、クラウドの腰を持ち上げると割れ目に自身を擦り付けられる。不本意ながら騎乗のまま、ザックスが軋みを立てて侵入してくる。
「ひ、あ……ア、ん……!」
到達したばかりの敏感なカラダを雄が挿し貫いていく。
「もっと力抜けって、きつい……」
「無理ぃ……い、ぁ……っ」
何処に力を入れていいのかも解らない。ザックスの肩を思いきり掴んで、腰を突っ張る。慎重に、だけど逃さない力強さで、根元まできっちり嵌める。
「この体勢……っ、きつい……!」
「俺はイイぜ? ホラ、ここからならクラウドの顔がよく見える」
頬に掛かる髪を払って、ザックスが覗き込む。
「っつ……締めんな、クラウド……」
「だって、そんな……」
見られたくない。クラウドは俯く。けれど赦さないというように、ザックスは下から突き上げ始める。
「ちょ、や……、あ、あん……くっ」
激しく。何度も何度も打ち付けられて、喘がされる。白い喉を仰け反らせ、クラウドは歓喜の涙を零す。
「ザックス、ダメ……あ、ア、はぁ……っ」
「何がダメ? こんなに……っ、銜え込んで」
はしたなく開けたままの唇から、引っ切り無しに甘い声が漏れる。快感に溺れることを、止められない。
クラウドの手を取って、ザックスはその掌にキスをする。
「ザックス……!」
熱が上がって、何も考えられない。互いの目に映るのは、相手の愉悦に満ちた表情。手繰り寄せるように抱き合って、解き放つ。
真っ白に──
「ふぁ……!」
「くっ……クラウド……!」
密着した肌から脈動が伝わる。総毛立たせて、込み上げる精を堪えずに放出する。ザックスは遠慮なくクラウドの内部に熱い奔流を注ぎ込む。
ベッドの上に静寂が訪れるまで、二人は固く抱き合ったまま動かなかった。ザックスがおそるおそる頭を撫でて、乱した呼吸を落ち着かせようとした。
「……『愛』があるって、素敵だよな」
「……っ!」
臆面もなくそう云えてしまうのは、やはり『愛』の力か。
たった一言で、まるで魔法にかかったみたいに虜になる。
溢れる想い。クラウドは無邪気に微笑むザックスに口付ける。……何をされたか理解できず、ザックスが固まる。
「……少し黙ってよ」
「…………クラウドッ!」
くすぶった炎に薪をくべるように。ザックスは跳ね起きてクラウドを組み敷いた。
「こら、ザックス……!」
「大好き、クラウド。離さないからな、絶対」
じゃれる仔犬を宥めるように、クラウドはその背中を抱き止めた。ピュアでクリアな約束。離さないから。
抗議の声は拙い愛撫に掻き消える。二人の吐息が刹那に溶け合う。
あと一回だけ『好き』と云ったら、告白をしよう。君を愛おしいと想う心。──きっと、唇から零れる愛のカケラ。ゆっくりと、満たして降り注ぐ。
恋の呪文。
……唱える。
「す、き……」
END
UP:2007-11-06