【カラダは正直にキミを語る】
クラウドが疲れた身体で部屋の扉を開けると、室内は普段とは違う空気に満ちていた。
「よっ、おかえりクラウド。今日も一日訓練ご苦労様でした! 飯、出来てるぞー」
「……今日もまだいるのかザックス」
「なんだよその冷たい言い草。嬉しいくせに」
鼻孔をくすぐる香ばしい肉と白飯の香りが、クラウドの正直な腹を鳴かせた。そしてなんとなく、『家に帰ると誰かがいる』現実を気恥ずかしく思う。
珍しくもザックスが一週間程休暇を与えられ、数日前からクラウドのいる隊舎に寝泊まりしていた。ここは本来は四人部屋なのでベッドなら余っている。それ自体は前からよくある事なので、今更クラウドにとっては大した問題ではない。だが『ソルジャーがクラウドの部屋を出入りしている』という噂は広まる一方だった。
しかし、当人は知ってか知らずか、もう何日もこの部屋に入り浸っている。嬉しいと思う反面、流石に迷惑だなと感じる部分もある。おたまを抱えたままクラウドの周りでだらしのない笑顔を振りまくザックスに、呆れつつ肩をすくめた。
「たまには、自分の部屋に帰ったらどうなんだ? もうずっとこっちにいるじゃないか。人の住まない家は荒れるって云うぞ?」
ソルジャーの住居は、正確には誰も知らない。神羅が提供しているらしいが、地上にあるか地下にあるかそれすら不明だった。クラウドも勿論教えてもらえない。特定されると反乱組織に狙われたり逆にファンに押しかけられたり、不都合な点があるからだ。ミッドガルのある区域には神羅の社宅がある。おそらくソルジャーの住居もミッドガル市内にあるのではないかとクラウドは推測しているが、根拠はない。個人的には知りたいが、わざわざ尋ねる必要もない。
「そうだよなー。解ってるんだけど、面倒じゃんか。ここにいればクラウドに会えるし」
「……なんだそれは」
「馬鹿だな、クラウドに会う為にここにいるんだろ?」
恥ずかしげな事をさらりという。
「それでわざわざ飯の支度までしてくれるのか。ソルジャーはいい身分だな」
「クラウドには沢山食べてもらって、早く大きくなってもらわないとな」
子供か俺は、とクラウドは口を尖らせる。本来なら、立場は逆のはずなんだ。ただの一般兵が、ソルジャーに夕飯を作らせるなんてあってはならない事だ。
何も出来ないクラウドは歯痒く思う。
「クラウド? 早く飯にしようぜ」
黙り込んだまま俯くクラウドにザックスは、しゃがんで顔を覗き込み頭を撫でる。パンっ、とその手を勢い良く払いのけ、クラウドは顔を背ける。
「クラウド?」
何をされたのか解らなかったザックスは、曖昧にはにかんだまま固まった。
「……何で」
クラウドは、疑問形にならない言葉を吐いて、半ばで止めた。『何で、俺の為にそこまでしてくれるのか』口ごもって、飲み込んだ。きっと、欲しい答えなら返ってくると、瞬時に解ったからだ。
ならば、聞きたくない。都合のいい解釈ならどうとでも導ける。
「先に、シャワー浴びてくるから」
「え、あぁ……そっか、そうだな。汗かいたんだろうしな」
まともに顔も見れず、クラウドは拳を握り締めキッチンを後にした。
嬉しいくせに。先ほどのザックスの声が反芻する。
傍にいたいのか、鬱陶しいのか、それすら掴めなくなる。
毎日顔を合わせるのに、遠慮しているのか触れてすら来ない。なのに、少しでも頭を撫でられただけで反応してしまう自分が嫌になる。まるで、求めているようで。
脱衣所で服を乱暴に脱ぎ捨て、扉を荒々しく閉める。シャワーの蛇口を捻って熱めの湯を出し、ザックスが触れた頭をわしゃわしゃと掻き乱した。それでもその感触は、消えるどころかますます強く残って、クラウドを困惑させた。
カチャカチャ、と無機質に食器とフォークが触れ合う音だけが部屋に響く。会話どころか、互いに声を掛ける事も無い。気まずい雰囲気が二人の間に流れたままだ。クラウドはちらっと、向かいで切りづらい肉と格闘しているザックスをさりげなく窺う。
怒っている風でもなく、かといって落胆している様子もなく、あくまで平静を装うザックスが酷くもどかしい。……怒っているなら簡単に謝る事も出来るのに。悪いのは自分なのだと、素直に認められる。
酷く不自由な状態だ。自分の部屋なのに、居心地が悪い。首の後ろがむずむずするような、気持ちの悪い感覚が止まない。
やがて食事の時間が終わり、ザックスが短く断って勝手に食器を片付け始めた。先に席を立たれて、また謝る機会をひとつ失った。手伝う、の一言も許さないザックスの背中に、クラウドはただうなだれるばかりだ。こんなすれ違いは初めてかもしれない。どうやって切り出したらいいのか、経験の浅いクラウドには解らない。
ただの一言だけなのに。
キッチンの入り口に立ち尽くすだけクラウドの姿に気づいたザックスが、いいから休んでろよ、と優しく声を掛ける。普段と何ら変わらない。
「明日、一旦家に戻るな」
「……えっ」
不意にザックスが顔を上げる。勢いのある水音に紛れてうまく聞き取れない。
「いや、あっちもほったらかしでさ、たまには掃除でもやらないとなぁと思って。……うん、ずっと帰ってないから」
「……そうか」
「悪かったな、居座っちまって」
「いや……」
ザックスはこちらを一度も見ない。もし見てくれたら、今クラウドがどんな表情でいるか、どんな気持ちでいるか解っただろう。
そんなつもりで、家の話をした訳ではない。ほんの冗談のつもりだったのに。言葉にならず、クラウドは唇を噛み締めた。帰って欲しかった訳ではないのに。
ただ、理由もなく傍にいる事に罪悪感を覚えただけだ。
「……ザックス」
短い呟きは相手に届かずクラウドは、仕方なくキッチンを出てリビングのソファに力無く沈み込んだ。
二度と逢えなくなる訳ではないのに、ザックスの言葉が酷く重くのしかかる。払うようにクラウドは、何度目か解らない謝罪への決意を新たに抱く。ひとまず謝ってしまおう。だが、きっかけがどうしても見つからない。
水仕事を終えて戻ってきたザックスは、やはりいつもと変わらない、文字にするとにこにこというような笑顔を向けた。今なら謝れる。確信したクラウドだったが、やはり言葉にならない。
「ん、どうしたんだ?」
「あ、いや……その」
「明日も早いんだろ、クラウド。俺、今日はこっちの部屋で寝るわ」
そういって指差したのは、クラウドの寝室の向かいの部屋だ。普段は物置としてしか使っていない、もうひとつの寝室。今日に限ってこちらで寝るという。
「なんで、だ……?」
「邪魔したくないしさ。さて、俺も風呂入ってくるな」
ぽん、とクラウドの後頭部を軽く叩いて、ザックスが右手を上げた。そしてそのまま洗面所の方へと去ってしまう。完全に謝るタイミングを失ってしまって、クラウドはこみ上げてくるどうしようもない虚しさを胸に押し留める。
「ちがう……」
邪魔じゃない。何故その一言が伝えられないのか、クラウドは自分を殴りたい衝動に駆られる。きつく握り締めた拳がやがてゆるゆると開いて、ザックスが触れた後頭部を押さえた。
ザックスがまだ起きている事を寝室の隙間から漏れる灯りで確認して、コンコンッと軽くノックする。
「まだ、起きてるか?」
念のため声を掛けると、すぐに扉が開いてザックスが驚いたように顔を出した。
「どうしたんだよ、こんな時間に」
「……借りていた本、返したかったから」
差し出したのは、以前からザックスに借りたままの雑誌だった。今頃になって返すのは不自然だろうか。だがそんなクラウドの内心など構わず、ザックスは軽くうなづいてそれを受け取った。
「明日、本当に帰るの?」
「えっ……あぁ、そのつもりだけどな」
「……少し、話がしたいんだ」
「あぁ、別にいいけど」
ザックスは気圧されるようにして部屋にクラウドを招き入れてくれる。顔も見ないままクラウドは部屋に入るとベッドに腰を掛ける。ベッドの上にはザックスが読んでいただろう雑誌がページを開いたまま置いてあった。
「邪魔……だった?」
「いや、そんなこと無いけどな」
ザックスは申し訳なさそうにそれを片付け、クラウドの隣に同じく腰を下ろす。クラウドは押し黙ったまま床を見下ろしていた。普段使っていない部屋のせいか、室内がどことなく殺風景でもあり、やはり埃っぽい。使わない物が部屋の隅を占領して、乱雑を極めている。やはり人が住まないと部屋が傷むらしい。
「……どうかしたのか、クラウド」
いつまでたっても肝心の『話』とやらが始まらない。ザックスが苦笑気味に呟いた。
「……なに、もしかして『帰らないで』って話か?」
茶化すように笑い声を上げると、クラウドがようやくぴくりと反応を示した。
そしてクラウドは何も云わずにベッドから立ち上がるとザックスの前に立ち、膝の上に乗り腕を伸ばして覆いかぶさるようにザックスにしがみついた。
「お、おい、ちょ、なっ……クラウドっ?」
素っ頓狂な声を上げ、ザックスがあたふたと抱きついてくるクラウドの背中に腕を回す。
「クラウド、な、どした? クラウド?」
「……馬鹿だな俺は……」
ますますザックスに絡む腕の力は強まっていく。クラウドの精一杯考えた答えだった。上手く言葉にならない事は、行動で示せばいい。結果は、見ての通りで。
離れたくなんかないのだ。
「……もしかして、仲直り……か?」
まるで子供をあやすように、ザックスが背中をさする。言葉の端に笑みを含んでいるような気がするのは、クラウドの思い過ごしではないはずだ。
何も云い返せずにザックスの肩口に額を押し付けていると、不意にこめかみに唇が触れてきた。
「ちゃんと言葉で云わないと解らないぞ?」
「っ……意地が悪いな」
「そういう所もクラウドらしいけどな」
クラウドは拗ねたように瞳を逸らす。ザックスは微笑んで、慰めるように後頭部を撫でた。
思わず顔を上げるとすぐ間近にザックスの瞳があり、縫い付けられるようにその不思議な蒼に惹きつけられる。どちらともなくお互いに双眸を閉じると、ごく自然に唇が触れ合っていた。いつ以来になるのかもう解らない、久しぶりのキス。離れてしまうと再びクラウドはザックスの胸に額を埋めた。照れくさくてまともに目も合わせられない。
「……邪魔なんかじゃ、ないからな」
「……あぁ」
言葉になんて出来ない。だけど。
素直に。
「……しよう、ザックス」
云われるまでもなくザックスはすでにその気で、返事の代わりにもう一度、キスをした。受け入れるように薄く開いた唇に、ザックスが侵入してくる。気が付くとベッドに押し倒され、濃厚な口付けに心も身体も溺れていった。
「……っ、く……うん、アッ……ん」
クラウドの花芯を舐め上げ、根元深くまで銜え込む。ザックスの熱い唇が上下する度、クラウドは得も知れぬ快感に打ち震え、声を上げる。
「ちゃんと声、出して……クラウド。聴きたい」
「ん、や……っ、ザックス……」
切なげに名前を呼ぶ。手を伸ばすと、ごわごわしたザックスの髪が指先を掠めた。梳くように掴んで、自身に押し付けるかのように力を込める。生暖かい感触。ザックスは暴れる雄を無理矢理押さえつけ、先走りを拭うように舌先を尖らせる。尿道まで入り込むようなその感覚に、クラウドは腰が抜けそうになる。
「ザックス……や、ソコ……」
「ん? 止めて欲しい?……本当に?」
きゅっと付け根を握って、ザックスは意地悪くクラウドを見上げた。
「こんなに張り詰めて……さ。たくっ、クラウドは素直じゃないよな」
「……んっ……う、ん……」
「こんなにも身体は正直なのにな」
どうされたいか、どうしたいか、一番わかってる。ザックスが触れるところが熱を持って訴えてくる。
──もっと、して欲しい。
粘膜を、皮膚を通して伝わる感情。クラウドは黙ってザックスを見返した。
ザックスはただ黙って口付ける。……知っているよ。そう云いたげに。
舌を絡み取り、軽く吸う。離れると唾液が糸を引いて頬を汚した。上気した瞳でザックスを見つめ返すと、その目蓋にもキスの嵐を降らせる。
左手が、脇腹を撫でその後ろの臀部に到達する。割れ目に沿って指先が蠢いた。ビクっと腰を浮かし、クラウドは恥ずかしさに目を瞑る。
「あ」
「……なに」
ザックスの手が止まる。
「参ったな……こっちの部屋、ローション置いてないぞ?」
「あ……」
必要なものは全てクラウドの部屋の方だ。思い出して、固まる。早く、繋がりたいのに。お互いに顔を見合わせて、ふとザックスが苦笑した。
「……取ってくるな」
「嫌だ……!」
起き上がるザックスを引き止め、クラウドが叫ぶ。
「行かないで……ここにいて」
「でも」
強引に掴んだ腕を引き寄せて、クラウドはその胸に飛び込んだ。
「離れたく……ない」
掠れたその言葉を聞いて、ザックスは無言で抱き締め返す。
素直じゃないクラウドの、本音。
ザックスは口元を緩ませる。
「うん、解った」
嬉しそうにそう囁いたかと思うと、ザックスはクラウドを引き離して手をついて後ろを向かせる。
「?」
四つん這いになり、脚を開かせると秘所が露わになる。尻たぶを割り開いて、窪みを空気に晒した。
「……ザッ……!」
思わず悲鳴を上げると、ザックスは有無を云わないというようにクラウドの自身を掴んだ。そのまま入り口の周囲を舌で嬲る。皺のくねる様子を舌で味わうように、執拗に舐める。クラウドは耐え切れず甘い声で鳴く。舌の先が抉るように入ってくる。
「ダメ……や、ん……。は、ザックス……っ!」
突っ張る両腕が力をなくし、尻を高く上げるように枕に突っ伏した。好機と見たかザックスは、更に執拗に責める。
「痛いの、嫌だろ? ちゃんと慣らさなくちゃ……」
「や、ソコばっか……ん、う」
先走りがザックスの手を汚す。物欲しそうにひくつかせるソコをザックスは解っていて苛める。
「嫌なのか?……ん?」
「……じゃなくて」
答えを知っていて促すのはずるくはないか? だがクラウドは云えなかった。
そうじゃなくて。
「……もう、欲しい……っ」
「……クラウド」
「ザックスが……」
肩越しに見やるザックスの表情は読めない。ただ、言葉に詰まったように俯いている。
「ザックス……?」
「……なんで、お前はそう俺を挑発するんだ?」
「な、なっ……」
ザックスは一歩前へ出ると、クラウドの身体を引き寄せる。そして、限界まで膨張した自身を下腹部になすりつけた。
ビクン、と肩を震わせるのと、ザックスが腰を押し付けたのはほぼ同時だった。
散々嬲られた秘所を解放し、ザックスが内部をゆっくり犯すのを感じた。背中にあたる熱い吐息。
「ザッ……クス」
何かが、貫き抉って進んでいく。クラウドが大きく息をついた隙を見つけて、ザックスが根元まできっちり挿入した。
「いきなり……全部入れるな……っ」
異物感。「ザックス」を感じて涙が零れる。
「痛かった……?」
「平気だ……っ」
「そりゃよかった」
慣らした甲斐がある。前後に小さく揺さぶると、クラウドが歓喜に喘いだ。
「動くぞ……?」
後頭部を撫でて、ザックスが宣告する。腰を掴み、抜けるか抜けないかギリギリまで引き抜いて、押し込む。
「ひぁ……!」
唾液に塗れた秘部は擦れる度に卑猥な音を立てる。ザックスが行き交う毎にぎしぎしとベッドが軋んで鳴く。それに合わせるように、クラウドの口から途切れ途切れに喜悦の声が漏れる。時折動きを止めて、ザックスは熱に浮かされた瞳でクラウドを見下ろす。クラウドは枕に縋り付く形で、律動が止むと背後を見返す。肩越しに見るザックスは何処か切なそうに、何かを堪えるように眉を顰めている。
「ザックス……ぅ」
クラウドは自分から身体を捻って、正常位に変える。向き合う事でザックスを更に感じたかった。ザックスは何も云わず、もう一度クラウドを抱え直して腰を振るい始める。
「は、あ……っ、ん、んぁ……ザックス、ザッ、クス……!」
「ハ……クラウド」
「あぁ、……はぁ、ア、あん……っ」
手繰るように背中に手を回し、ザックスを引き寄せる。
愛しい人。
離れないで。
……素直にはなれないけれど。
お前が一番大事だと、この手が伝えてくれるように。
ただ、希う。
「は、あぅ……っ、ザ、ックス……っ」
「……くっ」
大きく腰を打ちつけ、ザックスが止まった。その間隙を縫って、同時に到達する。クラウドは互いの腹を汚し、耐えていた分大量に放出する。ザックスは惜しみなく注ぎ込むように腰を摺り合わせた。結合した隙間から白濁が漏れてシーツを汚す。クラウドはしゃくり上げて、目元の汗と涙を拭った。折り重なるようにして抱き合い、二人はしばしの休息に浸る。
「……ザックス」
せっついて、顔を上げさせる。目が合うと、自然と笑みが零れていた。深く深く口付けると、ゆっくりと目を閉じた。
「……なんだよー。いていいんじゃなかったのかよー」
翌朝。仏頂面でシャワーを浴びるクラウドに、扉越しに文句を垂れるザックスがいた。あちこちが変な筋肉痛できしきしと悲鳴を上げる。
……ちょっと甘やかすとすぐこれだ。際限なく求められて結果、寝不足だ。クラウドは滴のついたままシャワー室の扉をがんと開く。
「しばらくザックスは出入り禁止だ!」
「ひっでぇー! そりゃないだろクラウドー!」
まるで捨てられた仔犬のようにきゃんきゃん騒ぐザックスにほんの少し同情したが、その隙を見て抱きついてくる彼にやっぱり情けは無用とばかりにシャワー室から蹴り出して、クラウドは溜息をついた。
──離れていたって、ココロはいつも一緒だろ?
小さく呟いてもシャワーの音に掻き消されて、ザックスには聞こえない。
素直になれない。けれどクラウドは、何処かもどかしいその感情を嬉しく思う。
拗ねるザックスを室内に招き入れようか、迷ってやめる。それすらも愛しい感情。抱いて、閉じ込める。いつか素直に求められる時が来るまで、クラウドはくすぐったい想いを胸に隠したまま。
いつか、きっと。
END
UP:2007-11-02