【五分間だけの我侭】



 ……一分、一秒。時は無情に、残酷に通り過ぎていく。流れる時間の中にいる俺たちは、その単調かつ非情な事象に逆らう術を持たない。時間は常に在るけれど、その存在を留める事は出来ない。
 二人で過ごせる時間は限りなく短い。解ってはいるけれど。ザックスは黄昏るように、壁にもたれかかって空を眺めている。支給ポッドを確認する元気もない。
 ……きっと、「クラウド分」が足りないんだ。
 まるで必要不可欠な栄養素のように、彼の存在が不足したままだ。
 最後に会ったのはいつだろう? すぐに思い出せないほど、きっと遠い日々。
 ザックスは大仰に溜息をついて、その場に蹲ってしまう。
 このままじゃ、嫌だ。駄目になる。
「ザックス、そろそろ出発の時間だろ?」
「カンセル悪い、ちょっと」
 背後からやってきたカンセルを尻目に、ザックスは携帯電話を握り締めてブリーフィングルームから飛び出した。
 次の任務が始まれば、また何日かは留守になってしまう。その前に。
 声だけでも、聴きたい。
 それは、独りよがりな我侭だろうか?
 それでもいい。
 ──クラウドを感じたい。
 折りたたみ式の、神羅製携帯電話。開いて、ショートカットキーでクラウドの番号を呼び出す。
 おそらく今頃は、軍の訓練中か任務か……すぐに電話に出られる状況じゃないかもしれない。
 けれど迷わずにザックスは、通話ボタンを押した。
「……クラウド」
 呼び出し音。何度もループする。焦っては駄目だ。なのに。
 心が逸るのを止められない。
「ザックス! 集合時間じゃないのか!?」
「十分間! いや、五分だけくれ!」
 カンセルの咎めるような声に、悪びれもせず応える。カンセルは解ったような解らないような複雑な表情で、下で待機しているであろう同行者に許可を貰いに行く。
 呼び出し音は続いている。
「……出てくれ……!」
 ぐっ、と受話器を握り締める。
 ぷつっ、っと不快に音が途切れた。ザックスは息を呑んだ。耳障りな砂嵐のようなノイズ。
 ノイズ混じりに聴こえる、吐息。
『……もしもし?』
「クラウド! 俺だ俺、わかるか?」
『わかるよ。どうしたんだよ、ザックス』
 口が自然と笑みを形作るのを隠せなかった。
「悪い、任務中?」
『うん。ジュノンで。ザックスは、任務中じゃないのか?』
「これから遠征。しばらくミッドガルから離れる。……けどさ」
 笑いを収めて、囁く。
「声が、聴きたかったんだ」
 受話器の向こうで、息を詰まらせるクラウドを感じた。
『なに云ってんだよ……』
「なかなか会えなくて、ごめんな」
『気にするなよ。こっちはうるさいのがいなくてせいせいしてるから』
「なんだと!」
『……嘘だよ』
 いつになく、クラウドがしおらしく応える。
『……逢いたいよ、ザックス』
「うん」
『また、逢えるよな?』
 それはこっちの台詞だ。また、逢えるだろうか。俺たちは。ザックスは目頭が熱くなるのを抑え、拭い捨てるように頭を振る。
「今度の任務終わったら、逢いに行く。待ってて」
『……うん』
「逢いたい」
『……うん』
「クラウド。……ごめん、もう時間なんだ。絶対、逢いに行くから」
『待ってる。気をつけて』
「あぁ!」
 通話を切る手が震えた。声だけで、こんなにも熱くなれる自分がいる。愛おしいと思う心。
 たとえ、二人だけの時間が短かろうが、一瞬で繋がれる力を持っている。
 時間なんて関係ない。そう、信じて。
 俺たちは、闘う。
 そしてその先にある、「二人だけの時間」を予感して。
「ザックス! 五分!」
「解ってる! サンキュー!」
 カンセルに片手を上げて、ザックスはあわててエレベーターに乗り込む。呆れ顔の友人はこの際気にしない。
 待っている人がいる。そんな人を待っている。
 我侭を赦してくれる相手がいる。
 それが、本当の「幸せ」。
 ……土産に何を持っていこうか。特産物でも買っていこうか。きっと怒ったような照れたような口ぶりで「いらない」などと嘯くだろう。だけど、本当の心を知っているから。
 流れる時間の中で、君に逢いに行こう。そして、二人だけの時間を、もっと手に入れよう。




   END
UP:2007-10-30