009.はじめての日


 
「……いたっ」
 前方からきた集団に肩がぶつかって、クラウドは思わず急いでいた足を止めた。背中に背負ったリュックから荷物が零れ落ちて、ますます人々の邪魔になる。
 ごったえ返す人混みに身体がついていかない。たまの休日なのに人の多い街に出るなんてクラウドには信じられない。拾い上げた荷物を持ったまま、遥か前を行く今回の首謀者を睨み返す。
 当の本人はクラウドが足止めされている事に気付かない。声を掛けようと顔を上げると、夏の日差しが照り返して一瞬意識が遠のく。
 周りは家族連れや友達同士の群れ、恋人達に囲まれている。思い思いに休日を楽しんでいるようだった。
 
(明日、一緒に買い物に行こうぜ! 俺、ちょっと見たいものがあるんだ。いいだろ?)
 
 ……誘ったのは向こうなのに。クラウドは溜息まで出る。
 人がいるのに、世界で一人ぼっちになったような錯覚。
 そして、そんな風に考える自分が一番惨めで。
 情けない。
「──クラウドっ!」
 突然ぐいっと腕を引かれ、強引に立たせられた。
「大丈夫か!? 具合でも悪い?」
「……ザックス」
「ごめん、俺気付かなくて……顔色悪いぞ、平気か!?」
 凄まじい勢いで謝られる。置いていったのはザックスじゃないか。云い返そうとしたが止めた。自分が鈍臭いだけで、ザックスに罪はない。
「大丈夫。荷物、落としちゃっただけだから」
「あぁ、うん。それにしても、人が多いな。迷子になったら困るな」
「……うん」
 ささっと荷物を背負い直す。
「ザックス、買い物の用事あるんだろ。俺はいいから、一人で行っていいよ」
 ついて行くのがやっとだ。足手まといになるなら、ここで別れて自分は帰ろう。クラウドが俯く。
「なに云ってんだよ! せっかくのデートなのに、お前一人にしてどうするんだよ!」
「なっ……!」
「俺はそのつもりだったぞ。ホラ」
 ザックスは妙に赤くなりながら手を差し伸べる。きょとんと、ほぼ反射的に手を出したクラウドを握って歩き出す。
「ザックス……いたい、痛い……っ」
 人混みを掻き分けるザックスは後ろを見向きもしない。
「デートって……」
 言葉を投げかけても反応はない。
 だけど。
 握り締めてくる手に、力が篭もる。
 男二人が手を繋いで(というより一方が引きづられているような感じだが)街中を無言で足早に歩くというのは、周囲にはどんな風に映っているのか。
 じんわりと汗の掻いた手。
 ……はじめて、かもしれない。
 この手を握り返しても、ザックスは離さないでいてくれるだろうか?
「ザックス……」
 ぎゅっと、握り返す。
 きっと、離さないでいてくれる。
 信じてる。
 この気持ちが何なのかわからない。けれど、ザックスなら。
 逸る鼓動。繰り返す。はじめての今日という日を絶対忘れない。重ねた掌の温かさを、永遠に──





     END