008.名前を呼んで
──それは遠い夢のような感覚。
「んっ……」
剥ぎ取られて露わになった白い肌の上に唇を這わせ、鎖骨に吸い付く。クラウドは堪らず息を漏らす。ザックスは悪戯めいた表情で胸元に刻々とキスの名残りを与える。
クラウドの弱い部分に触れず、ただその周りを舌でなぞる。
「……ふ」
ちゅ、っと音を立てて離れる。潤んだ目蓋の先に唇が触れる。
そして、爪の先で胸の突起を引っ掻く。
「んっ……」
クラウドは声を漏らすまいと顔を背ける。ザックスはクラウドの表情をじっと見つめている。
「声、出せよ。我慢しないでさ」
「嫌だ……」
「……強情だな。触る前からこんなに固くして……」
云いながら突起を弾く。撫でるだけでぞわっと背筋が粟立つ。まるで弄り易くするかのように、先端は小さく膨らんでいる。
「う……ん」
指の腹で押し潰すように弄ぶ。くりくりと摘み上げては引っ張る。緩急をつけて転がす。
クラウドは身を捻って、繰り返される波のような快感から逃げようとする。それを許さないザックスは、固く結ばれたクラウドの唇に舌を捻じ込む。薄く開いた口から切ない吐息が漏れ出す。
「ふ……、う……、はぁっ……」
唾液が頬を伝い落ちても、ザックスは構わず口を犯し続ける。胸をまさぐる手は次第に降りて、クラウドの一番の膨らみに触れた。その瞬間、クラウドはビクっと肩を震わせた。
「やだ……っ」
「嘘つき。こんなにしてるくせに……」
盛り上がるその部分を愛しげにさする。それだけでクラウドはゾクゾクと鳥肌を立てる。
「クラウド、ちゃんと声、出して」
「……っ」
ふるふると頭だけ振ってみせる。けれど身体の火照りは隠す事は出来ない。ザックスは下着ごと脱がせて、床に放る。くっと握り込んだクラウドの雄をそのままに、クラウドの顔をじっと覗き込んだ。
「……あんまり素直じゃないと、可愛くないぞ」
ザックスは眉を顰める。怒っているような低い囁き。クラウドは思わず手元のシーツを握り締めた。
「ん……」
ほんの少し刺激を与えただけでも達してしまいそうな雄を、ザックスは撫でさする。もどかしい、触れるだけの愛撫にクラウドの目には涙が溜まっていく。
……もっと触って欲しい。強請れば、すぐにでも与えるだろう刺激をクラウドは拒む。
「ホラ、……何もしてないのに、先っぽが濡れてきた」
「……う」
先端の窪みに指先を沿わせる。ぬるりとした感触。先走りが溢れ、ザックスの手を汚している。
「……ザックス……」
クラウドのだらしなく開けた唇に指を差し込んで、舌を絡め取る。
「あ、ふ……う、く……っ、ん……」
ザックスはクラウドを開放すると無理矢理に足を割り入って、双丘に手を滑り込ませる。身構えるクラウドに優しく微笑んで、ザックスは割れ目に中指を這わせた。しっとりと濡れる指先が、クラウドの内部にゆっくりと時間を掛けて潜り込んでいく。
「力入れるなって……」
「や、だって……っ、く……」
深く深く指が飲み込まれていく度、クラウドの背中がしなる。緊張したその場所を丁寧に解して、ザックスは不安そうに瞳を伏せるクラウドの目蓋に口付けた。
「まだ……嫌だ?」
それは意地悪く、クラウドはポロっと大粒の涙を零した。潤む視界の向こうに確かに微笑むザックスを認め、手を伸ばした。シャツを掴んで、今度は別の意味で首を振った。「嫌なんかじゃない」と。
ザックスは指を引き抜くと、ベルトを外しジッパーを下ろす。服は脱がないまま、ただ自身の昂ぶりを取り出した。
「……クラウド?」
シャツを掴む手が緩む。
「……なんでもない」
ザックスから目を背けて、クラウドが呟いた。
「わかった。……入れるから、ちょっと我慢して」
「っ……あ、ハァ……!」
云うなり襲い掛かる圧迫感に、クラウドは苦悶の声を上げる。
充分に解したとはいえ、熱く滾ったソレは身を引き裂くような痛みをもたらす。
「……ん、んぅ……!」
ザックスは少しでも痛みを和らげる為に、声を噛み締めるクラウドの頬にキスを落とす。ぐっと腰に力を入れると、根元まで一気に貫いた。
「ふぁ……っ、ん……、ふぅ、ん……!」
熱い。クラウドはともすれば飛びそうになる意識を手繰り寄せて、穿たれる下半身を堪える。手馴れた愛撫で心の芯まで蕩かされて、今にも到達しそうだ。
荒い息を吐き出して、懸命に腰を打ち据えるザックスを顧みる。霞んだ瞳に写るのは、嬉しそうにクラウドを見下ろすザックスの蒼い眼差し。
「……気持ちいい? クラウド」
ふと動きを止めて、ザックスが尋ねる。名前を呼ばれて、ついカラダが反応してしまう。
「イイみたいだな」
「馬鹿……」
汗ばんだ肌が重なる。身体の奥にザックスを感じて身悶える。深く繋がった部位から溶けてひとつにでもなるように。クラウドは祈りを込めてザックスの背中に手を伸ばした。
抱き寄せて、囁く。
「ザックス……」
呼ばれたザックスは目蓋を閉じて、浸るようにクラウドの胸元に顔を寄せた。
「声、出さなくてもいいから……せめて、名前を呼んでくれよ」
「ザックス……?」
「そしたら、もっと気持ち良くなるから」
まるでまじないのように。クラウドは躊躇いながらゆっくりと言葉を紡ぐ。
「ザックス……」
ザックスの名を口にすると、カラダ中に電撃が走るようだ。
「そう、もっと……」
「ザックス……ア、んぅ……ザック、ス……っ」
鼻にかかる甘い声。呼応するようにザックスが腰を前後に動かし始める。
「クラウド……」
「……ザックス……っ」
クラウドが呼びかける度、ザックスが脈打つのを下腹部で感じ取る。
……クラウドは無意識にザックスの背中にしがみついた。求める事を知らないココロに、ザックスはそっと手を伸ばし導いてくれる。
名前を呼んで。
それだけで、二人は高みに上り詰めていく。
「ザックス、……あっ……ア、はぁ……っ、んあ……、や……ぁ!」
喘ぐ声は次第に大きくなっていく。恥を忘れ、ただ一心にザックスを呼び続ける。ザックスは呼応するように腰を幾度となく打ちつける。前後に引き抜かれる熱の大きさに、芯まで震える。
「そんなに……っ、きつく締め付けるな……」
「やっ……無理……ぃ……」
身体の内側で何かが弾ける音がした。クラウドは断続的にザックスを締め付けて、達してしまう。堪えられず、白濁した液がどくどくと流れ出る。後ろだけで達した所為か、射精の量が半端ではない。
それでも、ザックスは律動を止めない。仕方がない。クラウドは貫かれ打ち据えられる半身に翻弄される。痙攣したように足の指がシーツの上を滑った。
「ぁはっ……あ、ハァ……!」
ぎちぎちと結合した部位が悲鳴を上げる。過ぎた快感は毒だ。壊れる寸前で、ザックスが声を上げた。
「くっ……!」
ザックスは瞬間に己を引き抜いて、クラウドの果てた雄に自身の精を掛けた。二人分の精液がクラウドを汚す。伝い落ちる感触に身震いして、クラウドは引き抜かれた後も一人身悶える。
「……好きだ、クラウド……」
惚けた頭を傾けると、ザックスが切なげに覗き込んでいた。
「ザックス……」
ぬめった身体を寄り添わせて、ザックスはそっと紅く濡れそぼつ唇を重ねた。
これ以上、名を呼ばなくてもいいように。
重ねた肌が想いを伝える。
「愛している」……と。
ひくつく花芯はまだ熱を失ってはいない。クラウドは手探りにザックスのシャツを握り締めた。離れたくない。そう願いながら。
夜は長く、二人を包み込んでいく。ザックスは汗ばんだシャツを今度こそ脱ぎ捨てて、ベッドに深く沈み込んだ。
「ザックス……っ」
名前を呼んで。言葉は呪。縛り付ける、魔法。今夜だけは眠りに落ちる事を拒絶して、クラウドはザックスの上に跨った。
──逃さない。
魔法にかかったカラダはザックスを欲しがる。
きっと、解ける事はない。
クラウドが自らザックスに口付けると、その身体を思い切り抱きしめる。
お前は俺のもの。そして、俺はお前のもの。
夜は長い。
「来いよ、クラウド」
身も心も捧げる。それは束縛。だけど心地いい。逃げられない、逃さない。
名前を呼んで。
何度でも、それはココロを縛り付けるから──
「ザックス……!」
「……クラウド」
おいで、ここに。
まだ見ぬ快楽を、お前に与えるから。
呼んで、俺の名を。
夜が深まる。だけど二人にはお互いしか見えない。クラウドは少しだけカラダに正直になって、声を荒げる。
この熱は、ザックスだけがくれる──
愛おしい約束。
END