003.再会
飛び交う罵声と運ばれてくる料理。ジョッキが合わさって乾杯の音頭が取られる。ザックスは苦笑いしながらそれに応じる。
目の前の状況についていけない。何処から湧いてきたのか、小さなバーいっぱいに神羅の一般兵たちが押し寄せる。その端で大人しく座っているクラウドを見つけて、ザックスは溜息をついた。
ジュノンでの思いがけない再会。クラウドを誘ったはずの食事は火のついたように話が広がって、何故か関係ない他の兵士までも招いてしまった。
「……俺ってつくづく……」
ついてない。
これを機に仲良く──なんて邪な考えが邪魔したか。ザックスは財布の中身と注がれるビールとを交互に見て、肩を落とす。
トモダチに、なりたかったのにな。
クラウドは周りの薦めるまま注がれたグラスを口に運ぶ。なんとなく近付けなくて、チラチラと様子を伺う。
気分が悪そうだったのに、大丈夫なのか。
「ザックスさん、これどうですか?」
「おぉ、サンキュ」
差し出される料理。味なんてわからない。スパイスが酒と合うなと、ぼんやり思いながら。
「うわっ……オイ、大丈夫か!?」
ドターン、と大きな音がして、誰かがひっくり返った。驚いたザックスが振り返ると、人の波が引いてその人物を囲んだ。
「クラウド……!」
それはさっきまで普通に酒を飲んでいたはずのクラウドだった。赤い顔をして気を失っている。ザックスが駆け寄る。急性アルコール中毒だ、と一目でわかる。
「何飲ませたんだ!」
「いや、カクテルですよ……」
「水持って来い! 早く!」
上体だけ抱きかかえ、近場の者に命ずる。マフラーを緩ませて水を飲ませる。
「大丈夫か、クラウド!?」
けほ、と咳き込んでクラウドが意識を取り戻す。もっと水、と手探りにありったけのお冷やを口に含ませてやる。
「ごめ、ザックス……」
「気にするな。マスター、何処か休める場所はあるか!?」
二階なら、と親指で指示する。肩に担いで、ザックスは案内された部屋へクラウドを運ぶ。
「お前たちは飲んでろ。俺が介抱するから」
後に続く兵たちを追い払い、一息つく。クラウドを横にして、水の入ったコップを手渡す。
「酒、弱いのか」
「……いつもはそんなに飲まないんだけど」
「無理するなよ」
「飲めないと、怒られる時あるから、慣れないと」
クラウドはそういって水を飲み干す。アルコールが薄まれば意識は回復する。ザックスはがしがしと頭を掻いた。
「キビシイんだな、軍って」
「ソルジャーはないのか? そういうの」
「あんまり飲みには行かないな。仕事だけの付き合いってカンジ。というか、俺まだ未成年だし、飲まさせてくれないっていうか……」
「そうなんだ」
ほころぶような笑顔。ザックスは思わず見惚れる。
「クラウドだって、そういう友達いないのか?」
「お酒を飲むような? いないよ。同年代って少ないし……」
確かに、クラウド程の年齢の兵士なんて、今まで見たことない。
「じゃさ、今度ちゃんと食事に行かないか?」
「でも、忙しいだろう?」
「大丈夫。うん……ちょっとは忙しいけど、なんとかなるさ」
今日のごたごたで、しばらくはゆっくり出来ないかもしれない。
「こないだまで仕事なくて、遊んでたし」
「本当に!? ソルジャーってもっと大変かと思ってた」
「ほんとほんと。だから、だいじょうぶ。……な、無理して酒なんか飲まなくていいよ」
無理して。その一言でクラウドは沈黙した。
「皆に合わせようとしたんだろ? でもさ、嫌なら嫌って断っていいんだぜ。少なくとも、俺の前では無理しなくていいから」
「……うん」
うなづいてそのまま下を向いてしまったクラウドの頭を、わしゃわしゃと掻き混ぜる。
「……ザックス」
「ん?」
「ありがとう」
クラウドが笑う。
「礼なんていちいちいらないっつーの。友達だろ?」
「……っ、うん」
友達。
くすぐったいけど、確かなヒビキ。
胸に刻まれる。
「後で連絡先教えてくれよ。逢いに行くから」
「わかった」
また一人、大切な人が出来た。ザックスは胸を高鳴らせながら、拳を握り締める。守りたいもの。人との出会い、別れ。そして──
END